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2024.03.10

【労務】ベトナム労働法の要点

1. ベトナム労働法の特徴

(1)労働者保護が手厚い

社会主義のベトナムでは労働者が基礎となっているため、労働者保護が非常に手厚いです。雇用者側の都合で労働者を解雇することは会社の生産の場合以外には、事実上難しい状況にあり、労働者との個別の合意に基づいて労働契約を終了せざるを得ないことがほとんどです。有期契約の更新も1回に限られているほか、パートタイムの労働者についても無期契約の社員とほとんど同様の保護が与えられます。

ただ、後述の通り、使用期間後の解雇や有期契約の更新時点での雇い止めについては基本的に自由なので、無期契約を締結する前の試用期間や有期契約の期間で労働者を見極めることが非常に重要になります。

 

(2)判例がほとんど公開されておらず、行政機関との交渉が重要

ベトナムでは判例がほとんど公開されておらず、また行政機関の法令の運用も場所によって異なることが多いです。そのため、行政当局の指導に従う必要が出てくる場合も多々あります。ただ、そのような指導と政府や省の方針が食い違っているようなケースもあるため、指導を鵜呑みにせずきちんと文書で確認したり、法令に基づいて反論したりすることが重要です。

 

2. 採用、労働契約

(1)労働契約書の締結義務

原則として、雇用開始前に、書面または電子的方式による労働契約を締結する義務があります。また、家政婦などの一定の場合を除き、1ヶ月未満の有期契約については口頭で締結することも可能です。内容としては、以下の内容を定めなければなりません(労働法21条1項)。

・業務及び職場の場所
・労働契約期間
・業務または職名に従った賃金額、賃金の支払い方式、賃金支払時期、手当及びその他の補助
・昇給、昇級制度
・勤務時間 休憩時間
・労働者に対する労働保護設備
・社会保険、医療保険及び失業保険
・職業能力の訓練、増強、向上に関わる事項

 

(2)労働契約の種類

無期限契約と、36ヶ月以下の有期契約の2種類があります(労働法20条1項)。

 

(3)労働契約該当性

契約の名称を問わず、職務、賃金及び一方当事者による管理・監督が規定された契約は労働契約とみなされます。

 

(4)試用期間

契約の形式としては、労働契約とは別途試用契約を締結する方式のほか、労働契約の中に試用期間の条項を含める方式を採用することもできます(労働法24条)。

期間の長さについては法令上以下のように定められています(労働法25条)。明確な区別基準は示されていませんが、法定の試用期間を超えてしまった場合には400万〜1000VNDの罰金が課される可能性があるため、安易に長期の試用期間を設けることは避けるべきです。

職種 試用期間
企業法及び企業における生産・経営に投資する資本の管理・使用に関する法律に定める企業の管理者の業務 最大180日
短期大学10以上の専門・技術水準を要する職位の業務 最大60日
中級の専門・技術水準を要する職位の業務・技術を有するワーカー、専門的な業務を行う従業員 最大30日

なお、試用期間中の給与は賃金の85%以上であること、1ヶ月未満の労働契約には試用期間が設定できないことにも注意が必要です。

試用期間の満了までに会社は正式に雇用するかどうかを候補者に通知しなければなりません(労働法27条)。ただし、かかる通知さえすれば基本的に自由に契約を解除することができます。

 

(5)有期労働契約

有期契約については、一度の更新しか認められておらず(労働法20条2項c)、2回目の更新の際には無期限の労働契約となることに注意が必要です。もっとも、退職者、外国人労働者、労働契約期間が満了している労働組合幹部などには適用されず、また、日本と異なり有期労働契約更新時の雇い止めは自由に行うことができます。無期労働契約になった場合、会社側から当該労働者との契約を解除するためには、懲戒解雇を行うか一方的解除事由が必要となり、契約を終了させることは容易ではないので、無期契約へ移行するかどうかの判断は慎重にしなければなりません。

なお、多くのベトナム企業が、法令を無視して1年の労働契約を何回も更新している実態があります。中には解雇と再雇用を繰り返している企業もあります。しかし、このような取り扱いは違法であり、罰金に処せられる可能性がありますし、回数制限を超える労働契約は無期労働契約と扱われます。

 

(6)パートタイム労働者

労働時間を除き、正社員の労働者と同様に取り扱わなければならない(労働法32条参照)とされています。

 

(7)兼業

ベトナムでは、労働者は各労働契約上の義務を完全に履行できる限り複数の労働契約を締結する権利を有するとされており、労働者の兼業の権利が保障されています(労働法19条)。よって、労働契約や就業規則において兼業を禁止する条項を設けた場合は、ベトナム労基法違反となり、当該条項が無効とされる可能性が高いです。また、実務上、競業他社への就職禁止義務を労働者に課すことはできないと考えられています

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