2024.06.20
〇外国人労働者数について
厚生労働省の発表によると、日本における外国人労働者数(2023年10月末時点)は204万8,675人となり過去最高を更新しました。前年より22万5,950人(12.4%)増加し、伸び率も前年の5.5%から6.9ポイント上昇しています。外国人を雇用する事業所数は31万8,775所(前年比6.7%増)で、同様に過去最高を更新しています。
【外国人労働者数及び事業所数の推移】
外国人労働者数を国籍別に見ると、ベトナムが最も多く51万8,364人(前年比12.1%増)で、全体の4分の1を占めています。次いで、中国39万7,918人(3.1%増)、フィリピン22万6,846人(10.1%増)となっています。ベトナムは2020年に中国を上回って以来、首位が続いています。中でも技能実習生が20万9,305人と、圧倒的に多いのが特徴です。日本の技能実習制度は、外国人労働者の受け入れと技能習得を両立させる枠組みとして、多くの関心を集めています。
【日本における外国人労働者数(国籍別)】
〇技能実習生について
「技能実習」の在留資格を持つ外国人労働者は、「身分に基づく在留資格」「専門的・技術的分野の在留資格」の次に3番目に多い在留資格です。2023年10月末時点で、412,501人に達しており、これは全体の20.1%に相当します。前年比では69,247人、20.2%増加しており、その受け入れ数は着実に増え続けています。技能実習生の受け入れは業種ごとに異なり、主な業種は農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属、その他の7つの業種に分かれています。2023年10月末時点での職種別技能実習計画認定件数を見ると、建設関係の職種が最も多く、全体の21.9%に相当します。次いで、食品製造関係の職種が19.0%、機械・金属関係の職種が14.4%です。また、農業関係は8.1%で、繊維・衣服関係は6.7%です。技能実習生の国籍や地域別のデータを見ると、最も多いベトナムの割合は全体の半分以上になっています。
【業種別 計画認定件数(構成比)】
【技能実習生 国籍・地域別計画認定件数(構成比)】
では、なぜこれほどまでにベトナムが増加したのでしょうか?いくつか理由が挙げられますが、まず中国人技能実習生の減少があります。以前は技能実習生の多くが中国から来ていましたが、中国の経済発展により、日本での技能実習を選ぶ人は減少しています。そのため、企業側がベトナム人技能実習生の受け入れを拡大し、ベトナム人技能実習生の数が増加したことが背景にあります。また、ベトナム人は日本に親しみを感じており、日本の技術や文化に触れる機会が多いことも理由の一つです。本田技研工業株式会社(Honda)やイオンモールなど日本企業が多数進出しており、ドラえもんや名探偵コナンといった日本の漫画やアニメ作品も浸透しています。
さらに、ベトナム国内の平均賃金の低さも挙げられます。ベトナムの最低賃金は日本に比べて低く、技能実習生として日本で働けばベトナムで働くよりも短期間で多く稼げるため、外貨獲得の手段として技能実習制度を利用する人は多いです。また、ベトナム人技能実習生は、母国の日系企業での就職を目指す人も多く、技能実習修了後に活躍することを目指しています。2023年に外務省が実施した「海外における対日世論調査」によると、「あなたの国の友邦として、今日の日本は信頼できると思いますか?」という質問に対して、ベトナム人の68%が「とても信頼できる」、29%が「どちらかというと信頼できる」と回答しています。
〇技能実習生の現況
しかし、最近ではベトナム人技能実習生を取り巻く環境が変化しています。ベトナムが経済成長を続け国内の所得が増加する今、わざわざ日本で技能実習生になろうという人は減少しつつあります。
2022年の調査によると、都市部の平均月収は595万ベトナムドン(約3万6千円)、農村部は386万ドン(約2万4千円)です。2012年からの10年間で都市部は約2.0倍、農村部は約2.4倍平均月収がアップしています。都市部であればある程度の収入が見込めるため、多くの費用を負担してまで日本に技能実習に出向く必要性は薄れつつあります。また、日本円の価値が低下する「円安」が続いていることも問題です。円安が進めば進むほど、日本円をドンに両替したときに得られる金額は少なくなります。ベトナム人は家族とのつながりが強く家族のために仕事に励む傾向にあり、技能実習生の多くが母国の家族に仕送りをしています。母国の家族への仕送りを減らしたくない場合、より多くの時間働かなければなりません。これらに加えて、技能実習制度の問題もあります。悪質な業者に多額の費用を支払うために来日前に借金をしたり、違法な長時間労働や低賃金、暴力・ハラスメント行為などが横行する不適切な環境で働かされたりするなどが挙げられます。このような現状では、ベトナム人にとって日本での技能実習は魅力的に映らないでしょう。近年では、韓国への出稼ぎを希望する人が増えており、日本の競争力が下がってきています。
〇今後の展望
前述の通り、今まで多くのベトナム人が建設や介護など人手不足の現場では貴重な労働力となって、日本の企業を支えてきたのが実態です。人数が集まりにくくなったからといって送り出し国の乗り換えを繰り返していては、受け入れ企業の違法行為やそれによる技能実習生の失踪など、技能実習制度の問題を解決することはできません。また、日本政府は将来的に技能実習制度を廃止し、育成就労制度に移行することを発表しています。育成就労制度は、人材の確保と育成を目的としています。技能実習制度では原則認められなかった転職(転籍)について制限を緩和する他、関係機関の要件を適正化するなど、技能実習生への支援体制が強化されるのが特徴です。
日本における少子高齢化の一層の進展や人手不足対応のための新たな外国人受入れの枠組みの創設等を考え合わせると、今後も在留外国人は増加していくことが予測できます。特に地方圏においては、少子高齢化に加え、首都圏への一極集中により、生産年齢人口が減少し、人手不足がさらに厳しくなることが危惧されています。外国人労働者に対するニーズは大都市圏よりも地方圏で一層強くなり、地方圏に住む外国人の増加のペースも速まる可能性も高いでしょう。
日本に在留する大半の外国人の出身地であるアジア諸国を見ると、今後急速に高齢化することが見込まれている国も多く、国際的な労働力の競合はますます厳しくなることが予想されます。外国人を選ぶのではなく、外国人に選ばれるような魅力的な生活環境や就労環境を整備するという観点が不可欠になってきます。さらに、外国人一人ひとりが日本に住んだ後の各自の将来のライフキャリアや職業キャリアを具体的に描けるようにした上で受け入れを行うということが重要になってくるでしょう。
以上