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2025.09.16

ベトナムのカーボンニュートラルへの挑戦

 

世界的に気候変動対策が加速する中、ベトナムも2050年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を掲げています。これは、持続可能な社会の実現に向けた国際的な潮流に沿った重要な取り組みです。しかし、ベトナムは近年、急速な経済成長と都市化を遂げており、それに伴うエネルギー需要の急増が温室効果ガス(GHG)排出量の増加を招いています。特に石炭火力発電への依存度が高いことから、CO₂排出量は増加傾向にあり、経済成長と環境保護の両立は容易ではありません。こうした状況の中で、再生可能エネルギーの導入や脱炭素技術の普及、国際的な協力を通じた資金・技術支援が不可欠となっています。ベトナムの挑戦は、単なる国内課題にとどまらず、世界全体の持続可能な未来に直結する重要なテーマといえるでしょう。今回はベトナムのカーボンニュートラルに向けた取り組みについて紹介します。

1.温室効果ガス排出量の現状

<ベトナムの温室効果ガス(GHG)排出量の推移>

 

出所:「EDGAR – Emissions Database for Global Atmospheric Research」

温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、フッ素化ガス(HFC、PFC、SF6、NF3)を含む

 

2004年から2024年の約20年間で、ベトナムの温室効果ガス(GHG)排出量は2倍以上に増加しました。この急激な増加は、同国の経済発展のスピードを象徴するものです。ASEAN10か国の中では、インドネシアに次いで第2位の排出量を記録しており、地域における環境負荷の大きさが際立っています。背景には、都市化の進展や人口増加に伴うエネルギー需要の急拡大があります。特に、産業活動の活発化や生活水準の向上により電力消費が増加し、その供給を支えるために石炭火力発電への依存度が高まったことが、排出量増加の主要な要因となっています。こうした構造的な課題は、今後の脱炭素化戦略において克服すべき重要なポイントであり、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の改善が急務となっています。

2.エネルギー需要の増加と発電構造の変化

ベトナムの温室効果ガス排出量の増加は、急速な経済成長に伴う都市化や人口増加によるエネルギー需要の急拡大が主な要因です。
国内発電量の推移を見ると、2007年から2024年までに約1.5倍に増加しており、電力需要の拡大が顕著です。

出所:EVN(国営ベトナム電力会社)

かつては水力発電が主要な電源でしたが、増加する需要に対応するため、石炭火力発電の割合が大幅に増加しました。2024年時点では、石炭火力発電が152,775GWh(全体の約50%)を占め、最大の発電方法となっています。石炭火力はCO₂排出量が多く、温室効果ガス増加の主要因となっています。

一方で、再生可能エネルギーの導入も進んでいます。2010年代後半に固定価格買取制度(FIT)が導入され、太陽光・風力発電への投資が急増しました。2024年時点で再生可能エネルギーによる発電量は39,641GWh(全体の約13%)に達し、その内訳は:

・太陽光発電:25,862GWh(約65%)

・風力発電:12,747GWh(約32%)

・バイオマス:約3%

となっています。

<今後の課題と方向性>

再生可能エネルギーは急速に拡大しているものの、全体の発電量も増加しているため、再エネ比率は依然として低水準です。

今後は、石炭火力依存からの脱却と再エネ比率の大幅拡大が、カーボンニュートラル達成に向けた最大の課題となります。

3.カーボンニュートラルに向けた取り組み

2021年のCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)において、ベトナム政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を正式に表明しました。それ以前はパリ協定に基づき温室効果ガス(GHG)の削減目標が設定されていましたが、この宣言により、より長期的かつ包括的な取り組みが始まっています。

ベトナムは2022年10月、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)に最新の国別削減目標(NDC)を提出しました。

この計画では、カーボンニュートラル達成に向けた中長期的な削減目標が明確に示されています。

<2030年までの削減目標>

・国内努力のみ:15.8%削減

・国際援助を含む場合:43.5%削減

<分野別の重点削減>

特にエネルギー分野では、国際援助を含めて24.4%(約2億2700万トン)の削減を目指しており、最も大きな削減幅が設定されています。※土地利用やその変化(森林吸収など)も削減計画に含まれています。

出所:ベトナム政府NDC(2022年更新)に基づき作成。

※1:土地の使い方やその変化。温室効果ガスの吸収を含む。

4.エネルギー分野における取組み

ベトナム政府は2023年に、PDP8(第8次国家電力開発基本計画)を発効しました。この計画は、急速な経済成長に対応できる電力供給の確保と、脱炭素エネルギーへの転換を目指す国家戦略的マスタープランです。

<PDP8(第8次国家電力開発基本計画)概略>

PDP8の重点項目 2030年目標 2050年目標
電力供給の安定確保 発電設備容量の大幅増強 電力供給の完全安定化
石炭火力の段階的廃止 新規石炭火力の停止 石炭火力の完全廃止
代替燃料の転換 ガス・石油火力の効率化 クリーン燃料への全面移行
再生可能エネルギー拡大 再エネ比率の大幅増加 再エネ中心の電源構成

この計画は、電力供給の安定と脱炭素化の両立を図るものであり、ベトナムのカーボンニュートラル達成に向けた重要なステップとなっています。

出所:EVN(国営ベトナム電力会社)、改定版PDP8(決定768/QD-TTg)2025年4月15日

5.カーボンクレジットに関する取り組み

ベトナムでは現在、カーボンクレジット市場の開設に向けた準備が本格化しています。2020年に制定された環境保護法(72/2020/QH14)を基盤とし、政令06/2022/ND-CPによってロードマップが策定されました。

この計画では、

・2025~2027年:試験運用期間

・2028年:正式運用開始予定

と段階的な市場整備が進められています。

カーボンクレジット市場は、企業や国が温室効果ガス削減目標を達成するための重要な仕組みであり、ベトナムにとっても脱炭素化を加速させる鍵となります。現在は整備段階ですが、国際的な協力も進展しており、特に二国間クレジット制度(JCM)において日本とパートナーシップを構築しています。

この制度では、日本がベトナムに対して優れた脱炭素技術や緩和活動を提供し、ベトナム国内で温室効果ガスの排出削減や吸収が達成された場合、両国で削減成果分のクレジットを分け合う仕組みです。日本側は、支援を通じて得られたクレジットを自国のNDC(国別削減目標)の達成に活用できるメリットがあります。

こうした協力は、技術移転や資金支援を通じてベトナムの脱炭素化を後押しするだけでなく、両国にとって持続可能な成長を実現する重要なステップです。現在、日越間のJCMでは通算14件のプロジェクトが承認されており、今後さらに拡大が期待されています。

6.日本のベトナムに対する支援

ベトナムの脱炭素化を後押しするため、日本は政府・民間の両面で積極的な支援を展開しています。2022年12月、国連会議において日本を含む支援国グループとベトナムは、公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)に合意しました。

この枠組みは、ベトナムが石炭依存から脱却し、再生可能エネルギーへの移行を加速するための国際的な協力体制であり、今後3~5年の間に公的・民間資金から155億ドルを動員する計画です。

さらに、2025年4月には日本政府が最大200億ドルを官民で投じる方針を表明しました。これは、単なる資金提供にとどまらず、技術移転やインフラ整備を含む包括的な支援であり、ベトナムのエネルギー転換における重要な役割を果たします。

民間企業においても、大手商社やエネルギー関連企業を中心に、発電施設の開発プロジェクトや再生可能エネルギー事業への参入が進展しています。これにより、日本企業は技術力と資本力を活かし、ベトナムのエネルギー産業の発展に貢献すると同時に、脱炭素化に向けた国際的な取り組みの一翼を担っています。

7.最後に

ベトナムは急速な経済成長に伴い、エネルギー需要と温室効果ガス排出量が増加するという課題に直面しています。一方で、世界的な潮流に沿って2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げ、脱炭素化に向けた取り組みを加速させています。

政府はPDP8(第8次国家電力開発計画)を通じて、電力供給の安定と再生可能エネルギーの拡大、石炭火力の段階的廃止を進めています。また、カーボンクレジット市場の整備や、日本との二国間クレジット制度(JCM)、さらにJETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)など、国際的な協力も活発化しています。

こうした取り組みは、ベトナム単独では困難な課題であり、海外からの技術提供や資金支援が不可欠です。日本企業にとっても、再生可能エネルギーや脱炭素関連事業への参入は、環境貢献とビジネス機会を両立できる重要なチャンスとなっています。

ベトナムの脱炭素化は、地域の持続可能な成長だけでなく、世界全体の気候変動対策にとっても大きな意味を持つ挑戦です。

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